他者の感情の起伏に振り回されるのは、なんと疲れるのだろう。
 言葉を、誠意を尽くしても「納得できない」と一言言われれば、おしまいになってしまう。コミュニケーションツールとしての言語がそのコミュニケーションを阻害する。

1990年の芥川賞受賞以来、1作ごとに確実に、その独自の世界観を築き上げてきた小川洋子。事故で記憶力を失った老数学者と、彼の世話をすることとなった母子とのふれあいを描いた本書は、そのひとつの到達点ともいえる作品である。


 この本を読んで、泣ける泣けないとかはどちらでもよいだろう。何、結論から言えば、非常に内容が分かりやすい本だ。分かりやすく淡々とストーリーは始まり、受け継がれ、展開部を迎え、分かりやすく切なく結ばれていく。やっぱりたくさんの人に読んでもらって、泣いてもらうには、平易で唐突すぎない展開であるべきなのだろう。スタンダード、何はともあれスタンダード。何をいろいろ言っているの、って、わたしが泣けなかったからにすぎない。

 まあしかし、わたしはどちらかといえば数式というか数字そのもの好きであるから、この博士の気持ち、同意できるわけです。シンプル、やはりシンプルでないと。シンプルにすることはとても難しく、美しく、楽しいということ。そんなことをシンプルでなく、複雑に捏ね繰り回している私の雑文。
 本当は普段と違うことを書きたかったのに、結局こうなる。これがわたしのスタンダードなんだろうか?

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