ポオなのかガストン・ルルーなのか、とにかくその頃からあらゆる型のミステリが思考され試行され施行され嗜好されてきたし、わたしも食わず嫌いではないひとなのでできる限り様々なジャンルに手を出してはみたものの、結局のところ行き着く先は「本格」であり、「動機よりトリック」なのである。だってわたしの行動自体、そんなに強い動機があるわけじゃないし。

 島田荘司は有名な人で、有名な人というのは好評も悪評も、おのずとアンビバレントな評価をもらってしまうものである。

 さて、いよいよこの「ロシア幽霊軍艦事件」について触れてみたい。
 印象としては、「切り裂きジャック〜百年の孤独〜(タイトルは正しくないかもしれない)」という、やはり島田氏の切り裂きジャックに対する考察をミステリとして上梓した作品なのだが、なんだかそれに似ていた。別に似ているのはトリックとか、そういうことではなく、事件の背景あるいは主役にあたる女性の悲哀が根底に描かれているという点である。
 さらにそこには本格らしく、奇抜な様でいてなんだか説得力のあるトリックがある。
 御手洗潔を名探偵にすえたストーリー展開もさすがにこなれていて、読みやすい。

 つまりは、ミステリとして本格ファンとして満足できる上に、ちょっといい話だったんですよね、パタリロみたいに。なんていったら、アメリカの島田氏はどう思うんだろうか。

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