学生時代からのある友人とは、親しくなって間もない頃、太宰治のことで夜を語り明かすほどの濃密さであったが、彼女の小さい頃の「将来の夢」は、「スパイ」と「忍者」であった。いずれにしろ何らかの隠密行動と情報収集をしたかったらしい。
 
 しかも彼女は、「忍者」にならんとするため、自宅の庭に成長の早い植物を植え、その上を日々飛び越えていたそうである。いつまで続けて、最終的にどれだけの身体能力を身につけたかは聞きそびれた。あるいは聞いたが失念したのやもしれない。

 
 さて、私自身もスパイにはなんだか憬れていたので、意気投合し、お互いに暗号クイズなど出し合ったものである。
 あくまで子供の自由研究向けの本なのだが、秘密基地とか内緒の手紙とかをやりとりしたりしていた幼い頃を思い出すようだ。
 
 幼い頃は、世の中には冒険の余地が十分にあって、大人になれば知力も体力も、その冒険にふさわしいレベルに達して、スリルとサスペンスに満ちた冒険にいくチャンスが訪れるのだと、漠然と信じていた。
 宇宙刑事も5人組戦隊も、ふとしたことから魔法を使えるようになる少女も、そしてもちろん、MI6のジェイムス・ボンドも、身近な将来に感じていた、あの短いけれど一番キラキラしていた日々を、この本を手に取ると思い出すのである。

 

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