「これはほんとに名作だよ」

と言って、同僚が貸してくれた漫画である。

 この漫画の主人公はバンドブームでなんとなくメジャーデビューしたものの、「本物のロック」にこだわり、「本物の愛」を求めているのに、おいしい話には簡単に心がぐらつき、とりあえずファンの娘たちと愛のないセックスを繰り返してしまう。
 
 後悔するのに、繰り返す。その度に訪れる空虚感。そんなとき彼の前だけに現れるのが、彼の尊敬するアーティストの幻想なのだ。
 ロックを求めるときには「ボブ・ディラン」が、愛を求めるときには「レノンとヨーコ」が。
 幻想たちは説教をする訳ではない。時に語りかけ、見守るだけだ。しかし主人公はそこに「自分で意味を見いだす」。

 主人公がやっと求めていたものを手にし始めるとき…幻想たちは静かに去っていくのだ。

 何かを求めるだけでなく、探しているとき、人は本当に弱いと思う。自信が持てないからだ。自分に対する疑問があるから何かを探すし、方向性に迷いを生じる。あこがれの対象と自分とを比較し、現実に打ちのめされる。誰にでもあることだ、誰にでも。

 この情けなさ、弱さを私は愛する。

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